病気を克服し元気になった愛犬の嬉しい生活

ある夏の終わり、ゴミ捨てにアパートの1階に下りると、1匹の痩せた犬がいました。
地域にほかの野良犬はいたものの、私が初めて見たその犬は、首輪をしているのにとても痩せていたことが不思議だったうえ、人懐っこい感じが誰かに飼われていたのは明白でした。
あまり食事を取っておらず、おなかが空いてそうだったので、近所のコンビニエンスストアで買ってきた犬用のごはんを与えると、とても美味しそうに食べていました。

ごはんをあげ続けてよいのか悩んだ私が、地域で保護犬活動をしている方に相談すると、「迷い犬のようなので、ごはんをあげながら飼い主を探してみては」と言われました。
よく鳴くこの犬を「ニャーちゃん」と名づけ、ネットの迷い犬の掲示板に書き込んだり、近所のスーパーにチラシを貼ったり、翌日から飼い主探しを始めました。
そんな中、一向に連絡がない状況を相談すると、「飼い主が亡くなったか、引っ越しを機に捨てられたのではないか」と言われました。
心の中が悲しみと怒りでいっぱいになったものの、当時犬を飼えなかった私は、新たに里親を探すことにしました。
里親を探すには、飼い犬の生活に慣れることや、すぐ引き渡せるように近くに置いておかなければならず、私はニャーちゃんを保護し里親を探しました。

保護したあとの数日間、外が恋しかったのか鳴いたり、玄関をうろうろしたりしていました。
保護犬活動をしている方に飼い方の指導を受けながら、必要なものを準備しているうち、1週間ほどで飼い犬の生活に慣れてきた頃、ケージ内で留守番の練習もしました。

秋になり肌寒くなってきた頃、ニャーちゃんの異変に気づいたのは、散歩中鳴いたり、排尿の姿勢になってもすぐ止めてしまったりすることが多くなったのがきっかけでした。
「おかしい」と思い、近くの動物病院に行った結果、尿路結石と判明しました。
夏に比べ、水を飲まなくなったことが原因だったうえ、尿道が狭く、結石が尿と一緒に出難い体質であることも判明しました。
私とニャーちゃんの病院通いの日々が続きました。
結石の影響で、尿が出難くなったり、全く出なくなったりする尿路結石は、膀胱に1日尿が溜まったままになると危険を伴い、最悪死に至ります。
2日に1回連れて行った病院では、カテーテルを尿道に入れ尿を排出したあと、膀胱を洗浄する“導尿”の処置のほか、食事療法の高額な“療法食”を与えました。

治療期間が長引き、増える治療費を準備するのが難しくなってきた頃、私はノイローゼのような状態に陥りました。
そこで、保護犬活動をしている別の方に現状を相談すると、寄付金の募集を提案されました。
寄付金の提案をした方は、保護した犬を集めた“保護犬”のカフェを営み、“保護犬”に理解があり引き取った里親のお客が多く、寄付金も集まる可能性がありました。
藁をもすがる思いだった私は、募ってもらうことをお願いしたカフェや、ブログ、Facebookで寄付金を呼びかけました。

カフェのお客と何の関わりもなかった私は、見ず知らずのニャーちゃんに寄付してくれる人がいるのか、半信半疑でした。
寄付金の募集が始まり数日が経過した頃、カフェのオーナーから早速寄付金が集まったことを知らされ、本当に驚きました。
1万円の大金を寄付してくれた方に加え、多くの指定した“療法食”が届き、「ニャーちゃんの幸せを願って寄付してくれた」と思うと、感動して泣いてしまいました。
治療が長引き、資金が底をつき追い込まれていた私は、寄付金だけではなく、「頑張って」と言っているようなみなさんの気持ちに救われたと同時に、とても支えられました。
3カ月ほど続いた治療の費用は、ほとんど寄付金でまかなえました。

尿路結石が完治すると里親探しを再開させ、里親募集のサイトに随時新しい写真を更新したり、YouTube動画に何気ない日常を更新したりしました。
その甲斐があり、少しずつ問い合わせがくるようになると、遠くは新潟県からも声がかかりました。
ニャーちゃんを託せる相手を吟味した結果、譲り受けた“保護犬”を飼っていた、2人の子どもがいる30代前半の若いご夫婦との面談を決めました。

ニャーちゃんを保護して半年、家族同然だった私は、早く見つかってほしいと願っていた里親が決まると、悲しくて仕方がありませんでした。
別れ前の3日間、いつも以上にくっついていた私は、涙が出ることもあったものの、「ニャーちゃんの幸せのため」と思い返しました。
別れの日、ニャーちゃんを車に乗せ、一緒に住んでいた友人と届けに行きました。
奥さんに譲渡契約書を書いてもらい、ニャーちゃんを引き渡しました。

引き渡す前に別れの時間をもらった私は、1度捨てられ我が家にやってきたニャーちゃんが、「また捨てられた」と思わないか心配でした。
そんな私は、「捨ててないからね、このおうちで幸せになるんだよ。嫌になったらいつ帰ってきてもいいからね」と声をかけました。
奥さんが気にするから我慢していたものの、流れる涙を止められず、帰宅途中も「新しいおうちが嫌になって帰ってこないか」と思ったほど、2人で泣きました。

引き渡したあと、1週間ほど鳴いたり、先に飼っていた犬と距離があったり、なじめないようでしたが、新しいおうちを作ってくれたおかげで、少しずつなじんでいきました。
先に飼っていた犬と遊んでいる姿が送られてくると、ホッとしたと同時に、気持ちが落ち着いてきた私と友人は、送ってくる写真や動画を楽しみにしていました。
ニャーちゃんは、やっと本当の幸せを手に入れました。

現在、ニャーちゃんは、ご夫婦の旦那のお母さんの自宅で、ほかの2匹の犬たちと仲よく暮らしています。
ときどき送ってくる動画や写真を見ると、可愛がってもらっていることや、ほかの2匹の犬たちとの仲のよさが伝わり、嬉しい気持ちです。
いつになるかわからない中、そのうち会いに行くまで、2匹の犬たちと仲よく暮らしてほしいものです。
野良犬だったニャーちゃんは、幸せな飼い犬になりました。